胸の中には濁流が流れているのに、今わたしの手はここ20年の中でいちばんすべすべしています。お医者さんは「どうしたの、何かいいことあった?」とわたしに尋ねる。胸をひらいてこのどろどろを見せられたらいいのに。わたしの身体も、わたしの心も、わたしの言うことを聞かない。わたしすらわたしの他者だ。この世界には他者しか存在しない。  だけど、わたし、わたしのすべすべな右手の小指には銀色の指輪を、わたしのすべすべな左手の小指には金色の指輪をつけてあげるね