2023-01-01から1年間の記事一覧
暴力的に青い冬の空を、翼のないホンダが見上げている、そのからだを同じ青でいっぱいにして。そこでなにを考えているの。 わたしは、自分のからだを、自分のものにしたい。行きたいところへ、行きたいときに、飛んでゆきたい。会いたいひとに駆け寄って、知…
死は一般化、類型化にも関わらず孤独で、生は特殊化、個性化にも関わらず連帯する。
わたしの責任とは、本質的に他人と分有されているものだ。なぜなら、危害はわたしたちの多くが容認された制度や実践の範囲内でともに行為することで引き起こされるもので、また、わたしたちの行為のなにが誰か特定の個人を苦しめている不正義のどの部分を引…
チャコールグレーの、20デニールのタイツを履くとき、肌色が透けて見える、その、オレンジとグレーの混ざったような色は、どういうわけか青みも感じる、まるで濁った夕焼けのようなんだ。わたしは、スリットの入ったスカートを履き、裂け目の中の、濁った夕…
夕方、電車の窓際に立つときは、西日を眼の奥までいれてあげる。水晶体を光が貫通する。眼の底がよろこんでいるのがわかる。わたしの眼はひとより色が薄めで、茶色と、緑色と、黄色と、灰色を混ぜたような色をしている、だからなのか、世界がいつも眩しい。 …
許したまへ あらずばこその 今のわが身 うすむらさきの 酒うつくしき 与謝野晶子「みだれ髪」 今年一年をかけて、これまで見て見ぬふりをしてきた自分の諸問題に決着をつけようとしたら、想像していた以上にわたしは過去のわたしたちに恨まれていたようで、…
最近ずっと動悸がしているので常に吊り橋効果が適用されていて、出会うことすべてに恋をしてしまう
大江健三郎は、伊丹十三の自死に関してこう語ったといいます。 当人もあと三日我慢すれば、自殺願望が去ることくらい分かっていただろう。でも今の死にたい思いを大切にしたい、ということもあるのではないか。*1 おそらく、伊丹十三の自死を受けて書かれた…
あの子を愛するためだけに、僕は生まれてきたの。あの子を幸せにするためだけに、僕は生まれてきたの。とってもとってもとってもとっても大好きで、とってもとってもとってもとっても切なくて。自転車の変速をいちばん重くして商店街を駆け抜けていくんだ。…
日常の暮らしからは すっぱり切れて ふわり漂うはなし 生きてることのおもしろさ おかしさ 哀しさ くだらなさ ひょいと料理して たべさせてくれる腕ききのコックはいませんか 茨木のり子『清談について』より わたしは、友だちがほしい。茨木のり子のいう、…
運命愛の中で舵をとれ。それは矛盾しないから。それだけが希望だから。
自分にとってばかばかしい仕事、自分にとって最もいやらしい下着をきていけば、ほとんどは乗り切ることができる。
うすむらさき色の薬を飲んで今日のわたしを途絶えさせるのではなくて、今日という日のわたしの気持ちをかかえたまま、どこか別のせかいへ消えてしまいたい。大人になってまで、どうしてこんな気持ちになってしまうんだろう。わたしのあたまは、わたしだけの…
初夏の酷暑で枯れるときを逸し、ドライフラワーのようにずっとそこにこわばっていた紫陽花が、今日の雨を吸いこんで、6月みたいにうれしそうな顔をしていました。 9年ぶりに学問をしているわたしは、急速に人間性を回復していて、あまりにも美しい世界を彷…
わたしは知恵子になりたかった。 電車でわたしを触りつづけた知らないひと。紀伊国屋でわたしの腕をつかんで離してくれなかった知らないひと。玄関の前でわたしを触って「ごめんね」と言った知らないひと。公園で近づいてきた知らないひと。プールの、知らな…
月に一度、学校へ行くとき、わたしが門から入って校庭を歩いていくと、それに気づいた子どもたちがわぁっと窓から手をふってくれる。「わたしはここにいますよ」「あなたはそこにいますね」ということを伝えあう所作。こんなにもあなたはそこにいて、わたし…
『今夜は最高!』より、戸川純 服は紺色がいい。紺色は、抑制的で、規範的で、自制的で、消極的で、貞淑で、欲深くなく、だけど上等で、黒よりも冷たく、白よりも静かで、わたしの心を平らにするから。そして、紺色の服を着るときは、そこに「裂け目」がある…
本屋にいるとき、特に、ちくま文庫の棚の前に立っているとき、いつもしあわせな気持ちになります、なぜかというと、これから出会う知がこんなにもあるということがわかるから。 だけど、今日はかなしい気持ちにもなりました、だって、いつも、いつもわたしは…
わたしは、夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と翻訳したらしいというエピソードがとてもすき。 ふたりが絶対的に別の存在であることを認めたうえで、それでもなおある世界の美しさを、月の綺麗さに託して共有することで、さみしさを噛みしめるよ…
わたしの家の近くには小さな川が流れているのですが、そこを通りかかるとき、いつも誰かが、橋から川を覗きこんでいます。それは、友達同士とおもわれる数人のおばあちゃんであったり、仕事の休憩中なのかタバコを吸っているサラリーマンであったり、作業服…
これはわたしの性格の悪い部分が言っていたことなので、わたしはよく知らないんですけど、相手が自分に性的欲求を抱くことを当然のごとく信じているひとが苦手です。それは、星野源のANNの女性リスナーからのメールや、井口理ファンのツイートなどにときたま…
Tār(2022)-IMDb 子供のとき、感謝ばかりするラッパーに腹がたって「もっと反抗しろ!」と思っていたけれど、今、若いひとが何かを畏れたり、何かに反抗したりすることは尚更むずかしくなっていると感じる。若いひとが畏れたり反抗したりする必要がないように…
ピエール・ボナール≪浴槽≫ わたしは子供のころからアトピーで、皮膚がぴりぴり痛んだり、かゆくなったりして、自分の表面、つまり自分の輪郭を、つねにはっきりと感じながら生活してきました。また同時にわたしは子供のころから、第三の目が少し高いところか…
わたしは自分のことを、どちらかというと、感受性への水やりを熱心にしているほうだとおもっていたけれど、これまでより少し落ち着いた生活を4月からはじめて、自分の心がおもっていたよりぱさぱさとしていたことに気づいた。 若葉はつやつやしていて、少し…
つけているか つけていないか わからない ベージュ色の口紅が、それに練りこまれた光を反射する粒子により、太陽のもとでちらちらと輝いている。あがた森魚の流れる喫茶店、カフェオレにコーヒーシュガーをしずめて、少し待ってからすくいあげると、角がまる…
「先生にほめられて自信がつきました。先生も自信がなくなったら、わたしのことを思い出してください。」と10歳の女の子が手紙を書いてくれた。あなたにほめられて自信がついた、だからあなたもわたしを思い出して自信をつければよい という鼓舞を、わたしは…
4月から、9年ぶりに大学に通っています。 入学式、国旗があり、金屏風があり、前にずらりと並ぶ大学の要職たちはみな高齢の男性だった。入学前に仕立てたのであろう黒のリクルートスーツに身を包んだ新入生たちは、等間隔に並べられたパイプ椅子に静かに着…
さくらみたいにふわふわの白い犬を連れたおじさんが、道ばたで立ち止まり、空き地のさくらへ携帯のカメラを向けていた。 雨上がり、公園にできた大きな水たまりを、赤い傘をさしたままのおばさんがじっと眺めていた。赤い傘が水たまりに反射して、そのうつく…
中央線で、幼稚園生くらいの女の子が、わたしの履いている靴をじーっと見ていた。わたしは、細いストラップが3本ついた、黒いエナメルの靴を履いていた。 わたしは幼稚園生のころ、特別なお出かけの日のために買ってもらったエナメルの靴が大好きで、普段か…
わたしが魔女の宅急便のあのいやなかんじの女の子だったとしたら、腹ぺこな夕食どきにおでんを届けにきたキキに対して「わたしおでんでご飯食べられないタイプなのよね」とぴしゃりと言ってしまうわけだけれども、お酒を飲んでいるときなら話は別で。久しぶ…