白と黒、どちらに温かさを感じますか?わたしは黒。黒に感じる少しの温かさと、孤独に感じる少しの温かさは似ているような気がする。じゃあ死は?     わたしはこれまで3回、「死ぬかもしれない」と思ったことがある。     1回目は小学生、家族で伊豆白浜海岸に行ったときのこと。「最後にもう一度だけ泳いでくるよ!」と、珍しく前のめりな姿勢でひとり海に入り、離岸流に流されてしまった。浜にいる父に助けを求めるも伝わらないどころか、普段のわたしにはない明るさに応えようと、おどけた泳ぎのジェスチャーをしながらこちらを笑って見ている。その姿へのいら立ちを力に変えてなんとか浜に戻った。     2回目は大学生、友達と2人で横浜トリエンナーレに行ったとき。帰りに立ち寄ったコスモワールドで、「600円だし」と乗ってみたアトラクション「スーパープラネット」。乗ってみると、掴まるところも、身体を支えるバーも特にない。円盤状の乗り物が回転しながら地面と垂直になったとき、完全に上下逆になったわれわれの身体はただ遠心力によってのみ乗り物にくっついていた。かわいいピンクのカゴバッグから中身が落下しないように脚の間に挟み込みながら、申し訳程度の柵に掴まり、無言で命を守っていた友達の後ろ姿が忘れられない。     3回目はつい最近、ストレスによる歯ぎしりで歯が砕けちりそうになっているとのことでマウスピースをつくりに行った歯医者にて。「型取りしていきますねー」と口に突っ込まれたシリコンが、喉の奥にまで流れ込んでしまった。どこかへ行ってしまった歯医者さんを呼びたくても、少しでも姿勢を崩せばわずかな呼吸の隙間が埋まってしまう。わたしは無心で、目の前のモニターを見た。モニターには、恵俊彰のワイドショーが流れていた。恵俊彰は笑っていた。「死ぬ間際に見たものが恵なんて、いやだ、ホンジャマカなんて、いやだ…」と、生きながらえるための細い細い呼吸をつづけた。   今のところ、わたしのもとへやってきた死の気配は、温度でいうならとてもぬるく、色でいうなら彩度の高い色をしており、表情としては、ニヤついている。