嘘つきの眼

夕方、電車の窓際に立つときは、西日を眼の奥までいれてあげる。水晶体を光が貫通する。眼の底がよろこんでいるのがわかる。わたしの眼はひとより色が薄めで、茶色と、緑色と、黄色と、灰色を混ぜたような色をしている、だからなのか、世界がいつも眩しい。   ところでわたしの眼は視神経の異常があるために、緑内障になりやすいそうなのです。それで、毎年視野検査をするのですが、視野検査って、知っていますか、薄ぼんやりとした画面の一点を見つめながら、視野のどこかで一等星から四等星くらいの光を感じたら、持っているボタンを押すというもの。眼医者さんはいつも言う、「あなたの回答には嘘がなく信憑性は100%」と。薄暗い部屋で小さな丸椅子に座り、点滅する光を感知するとき、あのときほど、わたしという人生や記憶をかかえた個人を忘却して、ただただ知覚をすることってないの、わたしそれをメルロ=ポンティに教えてあげたい。ねえ、鷲田めるろのお父さんが鷲田清一だって、みんな知っていたの、知っていたなら、教えてよ、わたしの眼を見て、おまえは噓つきだと、言って、言ってよ