中央線で、幼稚園生くらいの女の子が、わたしの履いている靴をじーっと見ていた。わたしは、細いストラップが3本ついた、黒いエナメルの靴を履いていた。 わたしは幼稚園生のころ、特別なお出かけの日のために買ってもらったエナメルの靴が大好きで、普段からいつも履いていた。砂ぼこりでエナメルのつやがにごってしまうほどに。 「だから大人になって自分で買ったの」と女の子に言おうとすると、それは女の子ではなくかつての自分だった。 歳をとるごとに、かつての自分がやってくる回数は増える。かつての自分は大抵、かつての自分とわたしとをつなぐ もの・こと をとびらにしてこちらへやってくる。あるときはエナメルの靴、あるときはフーセンガムの匂い、あるときはシオンタウンのBGMを通じて。そしてわたしはいつも、かつての自分と出会うと泣きそうになってしまう。 昔テレフォンショッキングかなにかで井上陽水が、「歳をとると桜で泣くのよ」と言っていたけど、きっと井上陽水にとってのかつての自分は、桜をとびらにしてこちらへやってくるんだろうな。
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長い時間が過ぎました
いろんなことがありました
タモリ倶楽部が終わることにも泣いています