春、土曜日

つけているか つけていないか わからない ベージュ色の口紅が、それに練りこまれた光を反射する粒子により、太陽のもとでちらちらと輝いている。あがた森魚の流れる喫茶店、カフェオレにコーヒーシュガーをしずめて、少し待ってからすくいあげると、角がまるくなって、琥珀のようにちらちらと輝いている。そうして、「わたしはここにいるよ」とささやいている。    駅ビルの広場では、穂村弘が周囲よりやや高い台の上に座ってトークショーをしていた。少し立ち止まってから、ああ 穂村弘がいるなら戸川純のTシャツを着てくればよかった と、すぐにそこを離れてしまったわたしは紺色のワンピースで、春、土曜日、行くあてのない自分が、なんだかとても心細くなって  「ほむほむ、わたしもここにいます」  わたしも、世界を構成するつぶのひとつとして、ちらちらとしていますか。