本屋にいるとき、特に、ちくま文庫の棚の前に立っているとき、いつもしあわせな気持ちになります、なぜかというと、これから出会う知がこんなにもあるということがわかるから。    だけど、今日はかなしい気持ちにもなりました、だって、いつも、いつもわたしは、わたしの頭の中の知とだけ一緒にいるではないか。頭の中に知をころがして、ひとりで遊んでいる。誰かのことを、本当におもったことがあるか。誰かのために生きたことはあるか。こんな自分勝手なわたしの人生に、ひとをひきずりこんではいけなかったのではないか。    ちくま文庫の棚が、身勝手なわたしをうつしだす鏡のようにそこへ立ち上がってくるから。あるいは、イヤホンから流れていたチャットモンチーの「染まるよ」がそうさせただけかもしれないけれど。瞳の表面に涙が満ちてきて、わたしはくだりのエスカレーターに乗ったのです。