わたしのしたいこと、紺色のロングコートを着て、紺色のモヘアのマフラーを巻き、脚を手塚治虫の描く女の子のようなフォルムにしてくれるブーツを履いて、お財布とハンカチと文庫本と櫛しか入らないサイズのバッグを持ち、ひとり電車に乗って、出かけてゆき、つめたい風に吹きあげられながら、知らないまちの空を見上げて、さみしい思いをすること。わたしはいつでも世界に片思いをしていて、世界と両想いじゃないって、思い知らされること。    でもこのあいだ、海がきれいな知らないまちの、定食屋さんでアジフライ定食を食べてお会計をしたとき、お財布から取り出した50円玉があまりにも真っ黒に酸化していたものだから、「真っ黒だけど50円玉なんです」と言いながら店員のおばあちゃんに差し出したら、「あら、真っ黒でもお金だわよ」と言って笑ってくれた。    世界はいつもわたしに思わせぶりな態度をする。諦めさせてくれないんだね